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【ろう者】NPO法人Silent Voice井戸上様インタビュー後編

『知っておきたい!あなたにもできること』


前回の投稿に引き続き、井戸上様にインタビュー!


後編

 

5 デフでない人ができること


井戸上様:それはすごく難しいですね。僕らも本当に何年もかけて考えてきているんですけど、例 えば視覚障がいだと就労のメインストリームとして針灸・あん摩・マッサージっていう三つの仕事とかが結構メインのルートとしてあったりするんですよ。それはやはり、目が見えないからこそ手の触覚の感覚がすごい鋭い。僕らが普段手で触ってアンテナが張られてないところに視覚障がい の人は情報量がすごく詰まっているので、ある意味ゴットハンド的な働きをその職の中でできてし まう。それは目が見える人も真似ができない。しかし、聞こえない人にとってそれが何なのかって いったら正直なところまだ解明されていない、分かっていないところなのです。むしろそこに研究 や費用をつぎ込んで解明していきたいなっていうのは今すごい思っているところですね。


井戸上様:浅い話で、音が聞こえない分、目の力、見る力とかがやっぱり優れているよねみたい な話は実際あったりするんです。けれどそれがどの職のどういう部分に生きるのかっていうのが まだあまり繋がっていなかったり。なので「仕事」みたいな文脈でいうと少し考えづらいところはあ るんです。ただ皆さんがsilentを観ていて奈々(夏帆)の表現力がすごいと感じたりすると思うんですけど、やはり表情の使い方だったりとか頭の中にあることを映像的に人に伝える、身体の動 き、表情の豊かさ、そういった能力っていうのは間違いなく聞こえる人が真似できないものとしてあるのかなって思います。


ななこさん:そういうことを意識してデフの人と話すと、よりコミュニケーションがスムーズになるか なっていうことですよね。


井戸上様:そうですね。きれいな手話とかよりかは、見て伝わる方法が分かりやすいなっていうの は思いますね。


6 井戸上様からのメッセージ


ななこさん:ありがとうございます。では、私たちのSNSを見てくれている学生の方、社会人の方 に向けてのメッセージがあれば、お願いします。


井戸上様:聴覚障がいに関してお伝えすると、聞こえの度合いから、主軸となる言語なども含め て聴覚障がいがある人もすごい多様なんですよ。実は皆が手話をできるわけではなく、聴覚障が い者のなかでも30%の人しかできないと言われているくらい。なのでひとえに聴覚障がいがある 人だというふうに、ラベリングをしないことですね。「〇〇さん」っていう見方で、「その人」に興味を持つということをまずはやっていってほしいなと思います。その人を構成していることの一部として 聞こえにくいことであったりとか、言語が日本語ではないっていうことが存在しているだけで、本当 はもっとその奥にあるその人の好きなこととか大事にしていることとか、そういうことに興味を持つ ことから始めるほうが、会話がもっとスムーズに進んだり、もっと伝えたいっていう気持ちが沸き 起こってきたりするんじゃないのかなと思います。なので僕からは、「その人」にぜひ興味を持って くださいっていうのがメッセージになりますね。


7手話について


ななこさん:ありがとうございます。そうですね、私も聴覚障がいに限らず例えば外国人の方だっ たりとか、『あ、外国人だからこうなんだ』とかあとは、『子どもだからこうなんだ』っていうラベリン グを無意識にしているなって気づくことがたまにあるので、そこを反省しつつ、私も頑張って行き たいなって思います。ではここからはフリー質問タイムに行きたいと思います。では、質問があれば。


ゆうかさん:はい。今お話を伺っているなかで、日本語と手話っていうのは、そもそも違う言語とし て認識されているのかなって聞いていて思いました。私は手話も日本語を表しているから日本語 の一種なのかなって思っていたんですけど、今聞いている感じだと全く別のものとして認識されているのかなと思っていて。それってどういう感じというか...。そこが純粋に気になったので質問したいと思いました。

井戸上様:ありがとうございます。結論、日本語と手話は言語としては別物です。日本語、英語、 フランス語、スペイン語、とかいろんな言語がある中の一つに音声言語としてではない、視覚言語としての手話っていうのが存在しているという考え方ですね。

井戸上様:一般に日本で手話と呼ばれているものには「日本手話」と「日本語対応手話(手指日本語)」があります。日本手話はろう者の集まりができて、自然発生的にできてきたものです。日本語対応手話は、日本語を手や指で表すもので、主に難聴者や日本語を習得した後で手話を学んだ人たちが使っています。音声で話をしながら、その語順に従って手話単語や指文字を表現します。


「日本語対応手話」の場合は普通に日本語の文法に手話を当てはめただけなので日本語の文法なんです よ。たぶんsilentで目黒連さんとか川口春奈さんとかがやっているのは「日本語対応手話」。そし て、たぶん夏帆さんが意識してやっているのは「日本手話」の方だと思います。まあ聞こえるから 100%でいっているわけじゃないんですけど。だから見ていても手話表現の雰囲気とか全然違う と思うんですよね。 日本手話は、日本語とは別の独立した自然言語です。独特の文法体系をもっていて、日本語とは語順も違います。手指動作は手の形・位置・動きで構成され、手指動作が同じでも、肩の向き・うなずき・顔(眉、目、口)の動きなどによって意味が異なります。


井戸上様:たぶん日本の中で一般的には手話が言語だっていうことは認知されてないと思いま す。僕が生まれた年ですね、1996年に「ろう文化宣言」が提唱されました。「ろう者とは、日本手話という、日本語とは異なる言語を話す、言語的少数者である」ということを証明した、宣言した大きな時代の流れみたいなのが1996年にあって、そこから 日本の中でも手話は一つの言語だって認められ始めて。今だと各自治体で「手話言語条例」って いう手話をひとつの言語として自治体でちゃんと認定して、手話を学べる場所だったりとか、手話 を大事にする教育だったりとか、そういうのをしっかり定めていこうっていうのが今でこそ広がって きているっていう感じだと思います。


ななこさん:逆に1996年までなかったんですね。その考え方が。


井戸上様:ちょっとこの話すると複雑なんですけど、日本の中でも1900年代とかに手話教育とい うのがすごく広がった後に、アメリカからの流れで「口話」っていう聞こえる人に近づきましょう、み たいな音声を出す練習をしたりとか、口元読む練習をしたりとか、そういう教育が一気に日本の 中でも広まったタイミングがあって。で、僕の母親はそうなんですけど、そこで育った人たちはある 意味感情表現する手段を持たないで大人になった。実際に口話の教育を受けてきた人にはそう いう傾向が多かったりする中で、手話っていうのが子どもの教育においてすごい重要だよねって いうのが1996年以降とかにどんどん戻ってきている状況です。いろんな歴史はあるんですけどね。


ななこさん:そうなんですね。初めて知りました。昔から聴覚障がいの方はいらっしゃるはずなの に、やっと最近ちょっと動き始めたくらいですもんね。


井戸上様:歴史はすごい浅いと思いますね、他と比べても。


きみさん:さっき二種類の手話を教えていただいたんですけども、よくニュースとかで誰かがしゃ べっている横で手話で伝えてくれている方がいると思うんですけども、そういうのはどっちの種類 の手話なんですか?

井戸上様:基本は日本手話に寄せているはずなんですけど...人によるって感じですね。

きみさん:そうなんですね。じゃあ基本的にはどっち使ってもいいよみたいな?

井戸上様:ただ、本当にろうの人が見て分かりやすいのは日本手話なんで、そっちが出ている方 がいい。ただ聞こえる人の頭の中ではどうしても日本語がベースになっているので、本当にろうっ ぽい手話表現が通訳のなかではできないというケースの方が多いとは思いますね。


井戸上様:だから今パラリンピックの通訳とかって聴覚障がいのある当事者の方が通訳していた りするんですよ。それ意味わかんないですよね、普通に考えたら(笑)。音を聞いて本来通訳して いるのに、聞こえない人が通訳してるって。どういうことかっていうと、「手話通訳」とは別に「ろう 通訳」っていう職業が実は今存在していて、ろうの人が見て分かる手話表現に変えるっていう役 割がある。だからパラリンピックとかだと、音声の情報をまず手話表現に変える人がいて、その手 話表現をろうの人に分かりやすい手話表現に変える、ろう通訳の人がいるっていう。テレビに出 ているのはその「ろう通訳」の方が出ているんです。

きみさん:なるほど。知らない世界を知れました。


井戸上様:ろう通訳はめっちゃマイナーですね。いま全国に30人くらいしかいないらしくて。


きみさん:井戸上さんがやられているクラスとか教室に通っている生徒さんって、聞こえない段階 があると思うんですよ。補聴器を付けたらちょっと聞こえる子とか完全に聞こえない子とか、手話 ができる、できないとか。そういうのってクラス分けされているんですか?それともみんなレベルで 手話できるようになろうといった感じでやっているんですか?


井戸上様:いや、そこはバラバラですね。むしろその環境の中でお互いがどうやったら自分の言 いたいことを伝えられるかとか、逆に相手の言いたいことをどう自分で理解しようとするかってい う、そこの想像してもらうってところにポイントを置いているので。とにかく手話がこのレベルまでできないといけないよ、みたいな条件は僕らの中では設定していない。その子自身の大事にしてい るとか、一番わかりやすい方法、伝えやすい方法っていうのが存在しているので。


きみさん:あえて統一せずにってことですね。


井戸上様:そうですそうです。実際そういう場所がね、すごい少ないんですよ、全国のろう者の子 どもの教育施設とか見ても。例えば、「手話じゃないと来れない」とか。その制限を作ってしまう と、興味はあるけど手話でコミュニケーションできない子とかは対象外になってしまう。逆に声だ けでやってしまうと手話の子は分からないとか。それによって選択肢が削られるみたいなのも、な んかすごい本質的じゃないのかなっていう感じはあるので、子どもに合わせたコミュニケーション 環境を作るっていうのを僕らは一番大事に考えています。


きみさん:そうですよね。そっちの方が子ども自身の考え方とか、自分で考える力が出ると思う し。たしかに私も今日井戸上さんのお話を聞くまで、耳が聞こえない方=手話、みたいに勝手に 紐づけていたので、今日色々聞いてすごい勉強になりました。ありがとうございます。


井戸上様:はい、ありがとうございます。


8 デフの方との会話のポイント


ななこさん:もう一個質問いいですか? 手話が使える使えないに関わらず、みんな一緒のコミュニ ティにいるっていうお話を聞いて思ったんですけれども、前回の聴覚障がいについて扱ったイベ ントで、メンバーが全員ミュートにしてチャットを使うだとかジェスチャーを使うだとか、あとは手話 を習っているメンバーがいるので手話をできる人は事前に「これはこういう意味だよ」っていうのを 教えた後で手話を使うとかしながら『無人島に行くなら何を持っていくか』っていうテーマで話し 合ったんですよ。それが想像していた以上に難しくて。

例えば私は『ナイフ』って言いたくてチャットを打ったりとか画像を見せたりっていうのはできたん ですけど、なんでナイフを持っていきたいのかっていう説明をするのが一対一ならまだできるかも しれないけど、5,6人ほどで集まった時に言えなかったりとか。チャットの方はタイピングが速い 遅いもあるので、言うタイミングを逃してしまったりとかで上手く話せなかったっていうのがあっ て、、。複数人での会話の難しさってどうしたら解決できるというか、何か方法があったりします か?

井戸上様:んー、どうかな。そもそも『複数人で会話しない』みたいなルールを新たにそこに設け たら、もう少しコミュニケーションがしやすかったかな。その場には何人かいるものの、話す人の 順番を決めるとか。というのも、実際僕らも普段仕事では手話で会議したりするんですけれど、音 の情報って割とマルチタスクというか色々インプットできると思うんですけれども、視覚情報って やっぱり『一個に集中して見る』みたいなことがすごく重要になったりするので。みんなで見るもの を決めて話を進めるとか、話の切り替えのタイミングをちゃんと整理するとか、情報の流れ自体 はそういった区切りを入れると整理はできるかなと思いました。「理由を説明する」みたいな部分 に関しては、実際文字情報を使えば一瞬で伝えられるとは思うんですけど、文字をなくした場合と かは想像力をもっと働かせられたのかなって思うので次ぜひチャレンジしてほしいんですけれ ど、動きの情報とか、写真を持ってくるとかもすごい良いアイデアだと思いますし、物を持ってくる とか。そうですね、ちょっとその状況を僕は見てないんでアイデア出てこないですけど。

1 Silent Voiceについて

井戸上様:僕らは普段『株式会社Silent Voice』っていうのをNPOとは別で同じグループで運営し ていて、そっちでは無言語のコミュニケーション研修とかやってたりするんですよ。 『DENSHIN』っていうサービスで企業向けに。これは聞こえる人を対象にやっている研修事業 で、日本語っていう言葉とか・会話っていう音声の情報で人に何か伝えたりしてても、表情の持つ 意味とかその温度感みたいなところから受け取る人に伝わっていることが若干ずれていたりと かってあると思います。そういう非言語、言語以外の情報ですよね、表情ですとか。そこがいかに 重要なのかちゃんと再認識しましょうよっていうメッセージのある研修を聞こえる人向けにやって いて。

特に頭が固い会社というか、カチッとしている会社ほどそこがおざなりになっていて、上司の部下 に対してのコミュニケーションがなんかすごいこう...本質が見つかったみたいなこととかしてる時 に、文字情報を徹底的に排除すると非言語の領域の想像力がすごい働くので、ZOOMとかでも そういう研修はできたりするのかなと思っているので、もし機会があればまたやってみてください。

ななこさん:はい、ありがとうございます。では、これでインタビューを終わらせていただきます。本 日はありがとうございました!

井戸上様:はい。ありがとうございました!


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